「やらないこと」を決める。更年期世代のNot-to-Doリスト

今週、しなくてもよいことを一つ決めてみる
「もっと頑張らなければ」「きちんとしなければ」と、毎日の予定を詰め込んでいませんか。
仕事、家事、家族のこと、人付き合い。更年期世代は、いくつもの役割を同時に担いやすい時期です。一方で、心身のコンディションが日によって変わり、これまで通りに動くことが難しい日もあります。
そんなとき、何かを新しく始めるだけでなく、あえて「やらないこと」を決めるのも、自分を守るための選択肢です。今回は、毎日の負担を見直す「Not-to-Doリスト」の作り方をご紹介します。
更年期は、負担が重なりやすい時期
更年期は一般的に、閉経の前後約5年ずつ、合わせて約10年間を指します。女性ホルモンの変化だけでなく、体質や性格、仕事や家庭などの環境的な要因も、心身の不調の現れ方に関係するとされています。
(参考:厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト:更年期」)
この時期は、職場で責任ある立場を任されたり、子どもの進学や独立、親の介護など、生活環境が変化したりすることも少なくありません。体の変化と複数の役割が重なることで、気づかないうちに負担が積み上がることがあります。
日本の45〜55歳の女性491人を対象にした研究では、更年期症状の重症度と関連する生活上の要因として、家事への負担感、相談相手の有無、生活上のストレスなどが挙げられました。これは因果関係を証明するものではありませんが、更年期の心身を考えるうえで、日々の役割や周囲との関係にも目を向ける必要性を示しています。
(参考:渡邉竹美ほか「更年期症状と女性の生活体験因子の関連性の検討」日本女性心身医学会雑誌、2005年)
なぜ私たちは「やること」を増やしてしまうのか
疲れているときほど、「もっと効率よく動こう」「運動やセルフケアを始めよう」と、新しい習慣を足したくなることがあります。
2021年に科学誌『Nature』へ掲載された研究では、人は物事を改善するとき、何かを取り除く方法よりも、付け加える方法を考えやすい傾向が示されました。特に、考える余裕が少ない状況では、有効な「引き算」を見落としやすいと報告されています。
(参考:Adams et al., “People systematically overlook subtractive changes,” Nature, 2021)
Not-to-Doリストとは
Not-to-Doリストは、自分がしなくてもよいことや、今は優先しなくてよいことを書き出したものです。目的はすべてを投げ出すことではなく、限られた時間や体力を、本当に大切なことへ使うために負担を整理することです。
たとえば、次のような項目から始められます。
- 体調が悪い日に、予定通り家事を終わらせようとしない
- 急ぎではない連絡に、すぐ返信しない
- 手作りにこだわらず、市販品や宅配サービスも利用する
- 気が進まない誘いを、反射的に引き受けない
- 家族の問題を、すべて自分が解決しようとしない
- 寝る前に、仕事のメールやSNSを確認しない
40〜59歳の女性を対象にした日本の調査では、周囲からの支援を得られていないと感じる人ほど、自分の気持ちを抑え、他人に合わせやすい傾向がみられました。やめたい習慣だけでなく、「自分がやるべき」「人に頼ると迷惑」という思い込みも、一度リストに書き出してみましょう。
自分に合うリストを作る3つのステップ

Not-to-Doリストは、まず一つを選ぶところから
1.「当たり前」になっていることまで書き出す
Not-to-Doの候補は、すでに負担だと感じていることだけではありません。長く続けているために、やめるという発想さえなかったことが、心身の余裕を奪っている場合もあります。
仕事や家事だけでなく、次のようなことも振り返ってみましょう。
- 惰性で参加している地域やコミュニティの集まり
- 楽しさより義務感が強くなっている習い事
- 会った後にいつも疲れるけれど、長い付き合いだからと続けている人間関係
- 「自分らしくいるために必要」と思い込んでいる服や持ち物、美容のルール
- 家族の予定調整や連絡など、いつの間にか自分だけが担当していること
「これをやめたら困る」と思っていても、実際には少し休んだり、頻度を減らしたりしても、大きな問題が起こらないことがあります。
もちろん、子育てや介護、仕事など、簡単にはやめられない役割もあります。その場合は、役割そのものを手放すのではなく、「すべて自分で対応する」「毎回同じ水準まで仕上げる」「頼まれる前に先回りする」といった、役割に付随する行動を見直してみましょう。
「本当に必要か」だけでなく、「今も自分が続けたいことか」「別の人や方法に任せられないか」「一度休むと、実際には何が起こるか」という視点で眺めてみることが大切です。
2.何の制限もなければ、何をやめたいか考える
書き出したものを、細かく分類する必要はありません。
お金、周囲の期待、これまで続けてきた年数などをいったん脇に置き、「明日からしなくてよいとしたら、最もほっとするものは何か」と考えてみましょう。
最初に思い浮かんだものや、目に入った瞬間に「本当はやめたい」と感じたものを一つ選びます。すぐに実行できるかどうかは、この段階では考えなくてもかまいません。
「やめられない理由」を探す前に、自分が本当はどうしたいのかを確認することが目的です。
3.完全にやめず、小さく離れてみる
選んだものを、すぐに永久にやめる必要はありません。
習い事を一度休む、集まりを一回欠席する、連絡をすぐに返さない、家事の一部を家族に任せるなど、元に戻せる方法で少し距離を置いてみます。
離れたときに、寂しさよりも安心感や解放感が大きかったなら、それは今の自分にとって負担になっていた可能性があります。反対に、やはり続けたいと思ったなら、再開してもかまいません。
Not-to-Doリストは、正しい答えを決めるためのものではなく、離れてみなければ分からないことを試すためのリストと考えてみましょう。
「やめること」を正解にしない
Not-to-Doリストは、一度決めたことを守り続けるためのルールではありません。いったん離れてみて、今の自分に本当に必要かどうかを確かめるためのものです。
休んでみた結果、「やはり続けたい」「思っていたより自分を支えてくれていた」と気づいたら、再開してもかまいません。反対に、離れたことで心や時間に余白が生まれたなら、もう少し距離を置いてみることもできます。
大切なのは、やめた数を増やすことではなく、これまで当たり前に続けてきたことを、今の自分が改めて選び直すことです。
リストを作ること自体が負担に感じる日は、無理に答えを出す必要もありません。「今日は決めない」「少し考えるのを休む」ことも、Not-to-Doの一つです。
また、更年期の不調をすべて忙しさや役割の多さだけで説明しないことも大切です。気分の落ち込みや不安、強い疲労、不眠などが続き、生活や仕事に支障が出ている場合は、セルフケアだけで乗り切ろうとせず、婦人科や心療内科などに相談してください。
減らすことは、自分を大切にすること

予定を減らして、自分のための余白をつくる
何かをやめたり、人に頼ったりすることに、後ろめたさを感じる人もいるかもしれません。しかし、今の自分に必要なものを選び直すことは、怠けることではありません。
まずは今日、「今週はしなくてもよいこと」を一つだけ決めてみませんか。やることを少し減らす。その小さな選択が、心と時間に余白を取り戻すきっかけになります。
よくある質問
Q1.負担に感じていることが、思い浮かびません
長く続けていることは、負担であっても「これが普通」と感じやすいものです。「毎週・毎月、なんとなく続けていること」「終わった後に気持ちが重くなること」「やめたら自分らしさや居場所を失いそうで不安なこと」がないか振り返ってみましょう。
すぐにやめる必要はありません。まずは一度休む、回数を減らす、ほかの人に任せるなど、小さく試してみます。離れてみて初めて、それが自分に必要だったのか、惰性や義務感で続けていたのかが見えてくることもあります。
Q2.家族や周囲に迷惑をかけませんか?
一人で抱えていたことを分担するのは、無責任なことではありません。「今日は体調がよくないからお願いしたい」「今後は交代にしたい」など、状況を伝えながら調整してみましょう。
Q3.やらないことを決めても、罪悪感があります
最初から永久にやめると決めず、「まず1週間だけ」と期間を区切ってみましょう。休んだことで心身や生活にどのような変化があったかを振り返り、続けるかどうかを改めて決められます。
参考文献
